5年くらい前でしょうか。
冬を越えて春の一歩手前の少し肌寒い時期に
1人で出張しました。
休みを挟んでの出張で
土曜日夜遅くまで仕事、
月曜日朝から仕事で
いったん帰ってくると
交通費がかかるということで
日曜日移動日となりました。
土曜日は仕事先のホテルに泊まりました。
次の日の日曜移動日は
少し仕事から離れて自然に触れ合うのもいいかなと
移動途中にある猪苗代湖の宿をネット予約しました。
自然にあふれた山奥の宿を選んだので
ローカル線で2時間、バスで30分くらいでしょうか。
バスで揺られたせいかうとうとと眠くなってきて急にバスの停車音。
慌てて降りて1人バス停に残されたぼくは
宿をめざして歩き始めました。
家はぽつぽつあるものの人の気配が全くしない。
当然コンビニもなく
不気味なくらい静かなところでした。
しばらくしてから右側にお店が見えてきました。
オレンジ色の袋がチラっと見えました。
ポテトチップスを売ってるようです。
何故かほっとしました。
文明の利器がここにあるなと
大げさではありますが安心したのです。
しかし、店を覗いても人の気配はまったくしません。
泥棒に入られたらどうするんだろうか。
と不思議に思いました。
ここにきて一度も人に出会ってないので
さらに不安になりました。
またしばらく歩き出してようやく宿にたどり着きました。
夕方くらいでしょうか。
心配してたよりそこそこ立派です。
玄関に入るとおばあさんが出迎えてくれました。
無造作に置かれたスニーカーが
玄関に脱ぎ捨ててありました。
こんな宿でも繁盛してるんだと失礼なことを考えていたら
部屋に案内してくれました。
ちょっと小汚いなぁ...と思いましたが、
まぁ一日だけだしとこたつに入り
移動で疲れたせいかそのまま寝てしまいました。
突然ですが電話がなり、
夕飯の支度が出来たとおばあさんから連絡がありました。
食堂に行くと刺身等がありましたが
まだ解凍できてないようでシャリシャリしててとても冷たい。
なんか気持ちが悪いと思うと
夕飯もあまりおいしくは感じませんでした。
そそくさと終わらし、支度をしてお風呂に入ることにしました。
お風呂入りたいんですけどどこにありますか?
とおばあさんに聞くと、
ここをまっすぐ行って突き当りを右に行ってまた左に行ってください。
なんかややこしいなと思ったんですが
まっ。突き当りを進めばいいし間違えることもないだろう。
そう思い行こうとすると
電気付けてください。
廊下にスイッチは3つ歩きながらつけていってください。
そしてちゃんと消してください。
と言われました。
電気ついてないのか...
はぁ?暗闇をたどって順に廊下の明かりのスイッチを付けていく?
そんなの聞いたこともない。
ふつうつけっぱなしやろ。不親切やな。
そう思いましたよ。
浴場は広いものの誰も入っておらず、
まだ8時だぞ誰も入らんの?...と不思議に思いましたが
とりあえず汗を流し、ビールでも飲もうと部屋に戻りました。
その途中おばあさんと会い
近くの家に帰るからなにかあったら電話ください。
と玄関にあるピンク電話を指差しました。
そっかきっと隣の離れに住んでるんだなと思い
部屋に戻りました。
ほんと人の気配がしない。気持ち悪い。
そう思いながら、冷蔵庫にあるビールのひと飲みしました。
ん?なんか味が少し違うような。気がしました。
まあ気のせいかなと思い、缶の期限をみると
1年くらい過ぎていました。
どういうことだとおばあさんに内線かけるとでません。
おばあさん離れに帰ったか…
ちっと舌打ちしながら、
ピンク電話をかけて文句言ってやろうと思い玄関まで行くと
やっぱり誰もいません。
ため息をついて横にある自販機に150円入れたんですけど
何の反応もありません。
ひょっとしてと
ゾっとしながら玄関のドアを押してみると
玄関のかぎが閉まっていました。
あせって2階、3階を見回りましたが誰もいません。
やられた!
そう思いました。
そのときぼくは宿に一人しかいない状態でした。
靴はどうなんだとみてみると、
明らかに古いスニーカーばかりです。
以前の宿泊者の忘れものか…と再度ゾッとしました。
やめてくれよ...
そこから速攻部屋に戻ると
内から鍵をかけ
布団をかぶりました。なぜか布団は湿っていました。
一歩も出ないようにして朝を迎えました。
そのあとはあまり覚えていません。
いまここに書いてあることだけを覚えています。
後で冷静になって考えてみると
スキー場の宿屋だったようです。
季節が終わって宿泊客がいないのと
スニーカーは確かに
団体の忘れものが多数だったようです。
宿に1人で泊まる。
そんな経験ありますか?